東京高等裁判所 昭和38年(ラ)476号 決定 1964年7月03日
抗告人 三電工業株式会社
相手方 松尾謙吾
主文
原決定を取り消す。
相手方の申立を棄却する。
手続の費用は相手方の負担とする。
事実
(一) 抗告人代理人は主文第一、二項同旨の裁判を求め、抗告の理由をつぎのとおり述べた。
原裁判所が発した昭和三八年八月二日付文書提出命令で抗告人が提出すべきものとされた昭和三七年二月から同年六月までの期間における抗告人会社の金銭出納に関する帳簿および伝票としては、さきに昭和三八年三月二〇日付原裁判所の文書提出命令を受けて同年四月六日抗告人会社が提出した総勘定元帳ならびにその基礎となる入金伝票および出金伝票があるだけで、それ以外には赤羽昭典が経理係として記載したいわゆる裏帳簿やその基礎となる伝票などは全く存在しない。
抗告人会社は、当時税務関係においても、金融機関に対する関係においても、別段裏帳簿を作らなければならぬ必要はなかつたのであるから、このような裏帳簿の存在を前提とする相手方の本件申立は理由がなく、この申立を認容した原決定は違法である。
(二) 相手方代理人は抗告棄却の裁判を求め、つぎのとおり述べた。
抗告人が主張する事実のうち、抗告人が昭和三八年三月二〇日付原裁判所の文書提出命令を受けて抗告人主張のような文書を提出したことは、認めるが、その他の事実は否認する。
赤羽昭典は昭和三七年二月から同年六月まで抗告人会社に経理係として勤務し金銭出納簿の記帳をしていたにかかわらず、さきに抗告人会社から提出された帳簿には赤羽の筆跡と認められる記載は一字も存在しない。これは、明らかに抗告人会社には表帳簿と裏帳簿とがあり、裏帳簿には抗告人会社の不利益になる事実の記載があるために、その提出を拒否しているからにほかならない。なお、赤羽昭典が記載していた裏帳簿はルーズリーフ六枚の金銭出納を記載した帳簿であり、相手方はその提出を求めようとするのである。
(三) 証拠<省略>
理由
抗告人が原裁判所の昭和三八年三月二〇日付文書提出命令を受けて抗告人会社の昭和三七年二月から同年六月にいたるまでの総勘定元帳およびその基礎となる入金伝票ならびに出金伝票を提出したことは当事者間に争いがないから、すでに提出した右文書のほかに、原決定が提出を命じたいわゆる裏帳簿にあたる金銭出納に関する帳簿およびその基礎となる伝票が抗告人会社に存在するかどうかについて考えてみる。
当審証人赤羽昭典は、同人が抗告人会社に勤務していた期間記載していた経理関係の帳簿はルーズリーフ五、六枚の簡単なもので、税務署などの検査には出せない裏帳簿ともみられるものであつたと証言しているけれども、他方当審証人中川宗良の証言によると、赤羽がずるずる休んだあげく会社をやめた後、総務課長であつた中川がその事務を引き継いたが、そのときには、赤羽の机の抽斗の中には出金、入金の伝票があつただけで、ルーズリーフ式の帳簿は残つておらず、赤羽の勤めていた間の経理関係の帳簿は伝票や領収証等を照合して中川が記帳したことが認められるから、前記証人赤羽の証言だけでは、相手方が主張するようなルーズリーフ式の裏帳簿とその基礎となつた伝票が抗告人会社に現存することを認めることはできず、他にこの事実を認めるに足りる資料はない。
してみると、相手方の本件文書提出の申立はその理由がなく右申立を認容した原決定は取消しを免れない。よつて、民事訴訟法第四一四条、第三八六条、第九五条、第八九条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 新村義広 市川四郎 中田秀慧)